茶器は小宇宙
最も古いティーポットとされるのは、中国・明代(15世紀頃)の「宜興坪(ぎこうつぼ)」です。
宜興の紫砂(しさ)という陶土で作られた小ぶりな坪で、一人分か二人分を濃く淹れることを前提にしたものでした。
中国哲学において丸(円)は宇宙の象徴とされます。
陰陽が交わる太極図もそうですが、「丸い器」は天と地の調和、完全な循環、生命のリズムを象徴しています。
宜興坪などの多くが円錐形・球形に近いのは道(タオ)に沿った自然な姿とされているからです。
東洋思想では万物は「気(エネルギー)」で出来ていて、それが滞りなく流れることが健康や調和の鍵とされています。
ティーポットは「気の器」とされ、気がスムーズに流れるような構造になっています。
茶筒(ティーポット)や茶碗の中には、お茶という天地自然の結晶が入り、お湯という陽のエネルギーで開花する、と考えるのです。
その時茶器全体がひとつの宇宙、あるいは自然のリズムを体現する空間になる、と。
茶人はその器と向き合うことで「自分の中の内なる宇宙を整える」という実践をしているわけです。
一方、西洋では、ティーポットは「優雅に紅茶を淹れるための道具」としてデザイン性やマナー、社交性が重視されるようになり、銀器や磁器の芸術的発展に貢献しました。
取っ手も日本の急須は侘び寂びや静かな所作を重視し小さな動作でお茶を注ぐことが出来る設計になっているのに対し、西洋のティーポットは上手ハンドルで優雅な動作を美しく見せるための道具です。
お茶をどう飲むか、は、人生をどう生きるか、と同義です。
東洋では、お茶は、修行と精神の研磨の道具。
西洋では、社交と美しい時間の象徴。
どちらも人間の豊かさを表す素晴らしい文化です。
そのどちらをも知って、世界中の美味しいお茶を自由に楽しむことが出来る現代に生きていることに感謝ですね。
