ティーカップの変遷

17世紀、お茶がヨーロッパにもたらされた初期の頃(主にオランダ、ポルトガル、イギリス経由)には、中国や日本に倣った取っ手の無い磁器の椀型が使用されていました。
中国の景徳鎮などから輸入された陶磁器をそのまま紅茶用に使っていたのです。
ヨーロッパの気候は中国よりも涼しく、温かいお茶の温度を保つためにお茶を熱い温度で淹れることが多くなったため、器がとても熱くなりました。
中国の人々は熱い茶碗を両手で持ち、口元に近づけてゆっくり飲む文化がありましたが、ヨーロッパではこの習慣に慣れていませんでした。
ヨーロッパの上流階級の人々の間では、手が熱くなるのを避けたい、そして、優雅に見せたい、という社会的ニーズもありました。
そこで登場したのが、取っ手付きのティーカップです。
18世紀初頭、ヨーロッパで独自にハンドル(取っ手)付きのカップと受け皿(ソーサー)が発明されました。
特にイギリスやドイツ(マイセン)ではこのデザインが広まり、ティーカップ&ソーサーという形が定着します。
取っ手があることで熱さを気にせず持てるだけでなく、指の使い方や持ち方が洗練されているように見える…つまり「美しい所作」の演出にもなりました。
18世紀後半以降、イギリスの「アフタヌーンティー文化」が発展すると、ティーカップは社交の場での教養や品位の象徴となっていきました。
東洋でのお茶は、精神性や一期一会の象徴であり、器は心を込めて両手で包み込むように持ち、器そのものの質感や温度を味わいながらそのひと時を楽しむ文化がありました。
一方西洋では、社交性やマナーが重視され、いかに優雅に動作を美しく見せるか、そしてお茶の色や香りを引き立てるか、が優先されました。
つまり取っ手の誕生は「西洋文化ならではの応答」であり、東洋と西洋の文化や考え方の違いが浮き彫りになるポイント、ともいえるでしょう。
この背景を知ると、お茶を飲むときのカップ選びも更に楽しいものになるのではないでしょうか。

Teacup